低所得者層にも成年後見制度利用の恩恵を!

低所得者層にも成年後見制度利用の恩恵を!
安心サポートネット基金を充実しよう!
1 長寿社会と成年後見制度の役割
 日本における平均寿命も毎年伸びて、100歳を超える人達も続出、まさに世界に先駆けた超長寿社会の到来である。ただし、すべて長寿者が、身体的にも、精神的にも、健康で迎えていれば、こんなに素晴らしいことはない。しかし、世の中にはc0166418_20334990.png
健康で、なに不自由なく長寿を謳歌する人達も少なくないが、その反面、長寿になるに従い、その負の部分として、身体能力や判断能力の低下に苦しみ、それが原因で、自立生活が困難となった人達が、続出していることも事実である。この現象は、少子高齢・核家族・無縁社会の同時進行により、益々深刻の度を加えている。
 成年後見制度は、このような自立生活が困難な人達を支える制度である。この制度には、法定後見と任意後見の2種類がある。法定後見は、既に判断能力の低下した者に対する保護支援策であり、任意後見は、判断能力低下前に、将来の判断能力の低下に備えて、本人が受任者との契約で取り決める保護支援策である。更に同じ類型として、将来の身体能力の低下に備える保護支援策として「後見型委任契約がある。この契約は、任意後見契約と連結して契約すると、「任意後見移行型」となり、将来の身体能力の低下ないしは判断能力の低下という二大不安に悩む高齢者の保護支援策として機能する。したがって、この移行型は、「転ばぬ先の杖」として大多数の高齢者に対し安心を与える素晴らしい制度と言っても、言い過ぎではないと思う。しかし、現在のところ、これらの保護支援策が、長寿社会の負の部分の受け皿として、十分に利用されているかといえば、残念ながら、否である。なんとか利用促進を図ろうと、平成28年には、「成年後見制度利用促進法」という法律が制定された程である。
2 低所得者層向けの利用支援事業
 これらの制度の利用の低迷には、更に、もう一つの長寿社会の負の部分が絡んでいる。それは、長寿になれば成る程、不足しがちな年金と決して豊かでない蓄えが一層目減りして、生活に不安を抱える高齢者・障害者が増加していることである。これらの低所得者層は、制度利用に必要な費用や後見人報酬の負担ができないから、利用したくても、利用できない状況にある。c0166418_15231453.png
 現在、このような低所得者層を対象として、市町村では、成年後見制度利用支援事業として後見申立て費用や後見人等報酬の一部を助成している。しかし、この支援事業自体が十分に知られていない上、利用上も制約が多く、市区町村側の支援の熱意も不足する等、いろいろ問題があって、支援事業の利用者は、極めて低迷している。この憂慮すべき状況を打開するには、国や自治体が、低所得者向けの抜本的な利用促進策を打ち出すことが必要である。しかし、現実にはその気配は、少しも見られない。
3 後見報酬支援の強化と「安心サポートネット基金」の充 実
 国や自治体による本格的な支援が実現するまでは、成年後見を事業目的とする関係団体が、当面、適宜に後見支援基金を創設して、低所得者による制度利用を支援することが考えられる。全国的には若干の法人が、既に基金を創設したが、運用が問題であると聞く。
 当法人は、26年6月、「安心サポートネット基金」を創設した。この基金の運用は多目的であって、1つ目は、障害者後見と任意後見移行型の問題点解決の支援、2つ目は、後見人等(職務担当者)の報酬支援である。
 基金創設5年間の活動は、もっぱら当法人と任意後見委任者の絆つくり(信頼関係の醸成)事業に焦点が置かれた。現在まで5回の交流会が実施され、毎回約40名の参加があり、評判も良くて、絆つくりとしては大成功だった。しかし、「安心サポートネット基金」の役割は、低所得者層の制度利用をしようにも、後見報酬が支払えない人達を支援することであるから、その主たる活動を後見報酬の支援事業に移すことが必要である。そのためには、本基金の大幅積み増しが必要となる。この度、理事会の決議により当法人の運営資金の一部が基金に組み込まれたが、本基金の財源を法人内支援者の寄付金と運営資金の組入れに依存するだけでは、多くを望めず、限界がある。基金財源の安定運用には、対外的に本基金をアピールして、外部者からの大型寄付金を確保することが重要である。そのためには、低所得者層に対する後見報酬支援事業の実績が必要なので、今後の基金運用の方針は支援実績を積み重ね、その実績をアピールして本基金の安定財源の確保につなげることとしたい。c0166418_15213446.png

 長寿社会では、身体能力ないし判断能力の低下による自立生活の困難な低所得者層の増加は避けられない。そして,長寿になればなる程、長寿者の資産は減少を続け、低所得なるがゆえに、成年後見制度を利用して安心した生活を送ることができない人達が増加するだろう。このような悲観的事態に陥らないよう、微力を尽くして、これらの低所得者層にも後見制度の恩恵が受けられるよう努力することが、福祉を標榜する当法人に与えられた使命だと思う。このことを肝に銘じて本基金の運用に当たりたい。


# by seinen-kouken | 2019-01-14 18:35

成年後見制度利用促進法への期待と不安

                     平成28年5月18日
成年後見制度利用促進法への期待と不安
1、基本方針の柱
 平成28年4月8日衆議院本会議で「成年後見制度利用促進法」が成立した。こ の法律は、自民、民進、公明等各党の賛成多数で可決成立した議員立法である。唐突に私たちの目の前に突き付けられた感のある法律ではあるが、この法律の内容をみて驚いた。当法人がこれまで地域住民の需要(ニーズ)は、「地域後見の実現」と「身上監護重視」の後見にあるとして、鋭意この2大ニーズに対応する理念を確立し、諸方策を実施してきたが、その当法人の理念や施策が、その儘、この法律の基本方針の柱となっているからである。c0166418_22233543.jpg

その注目すべき第1の柱は、成年後見制度利用促進の基本理念として、従前の「残存能力の活用」に代えて、新たに身上の保護(身上監護)の重視が掲げられたことである。そして、その基本方針の施策として、医療、介護等を受ける意思決定が困難な被後見人等が、円滑に必要な医療、介護等を受けられるよう、後見人等の事務の範囲について検討・見直しを図ることや任意後見制度の積極的な活用を図るための措置を講じること等が明らかにされた。
更に、注目すべき第2の柱は、地域における人材の確保策として、市民後見人の育成と活用を図る施策が織り込まれ、これに関連し、研修の機会確保や成年後見等実施機関(後見支援組織)の育成、活用及び活動支援等の施策が明記された。
この2つの柱が、当法人の目指す理念や重要施策と同じであることは、先行する当法人の理念や施策について、この法律が後追いの形で認知したものと判断できる。このことは、当法人の理念や重要施策が正しかったことの証明であり、また、当法人が地域住民のニーズに対応し、先駆的な活動をしてきたことを証明する証でもある。

2 基本理念及び基本方針に基づく施策等
 この法律の概略を述べると、まず、判断能力の不十分なことにより、財産管理や日常生活等に支障がある者を社会全体で支え合うことが高齢社会における喫緊の課題であるが、これらの者を支える重要な手段である成年後見制度が十分に利用されていないことを指摘し、次に、この制度の利用促進を図るためには、次に掲げる3つの基本理念を踏まえて行われるべきことを明らかにした。
(1)成年後見制度の理念の尊重
(2)地域の需要に対応した成年後見制度の利用の促進
(3)成年後見制度の利用に関する体制の整備
 そして、この3つの基本理念にかかる基本方針に基づく施策等を詳細に明らかにして、具体的にその指針を明確にしているが、それを分かり易く集約すると、その第1の柱が「身上監護重視」の後見であり、第2の柱が「地域後見の実現」ということである。

3 推進方法等
 この法律の利用促進の基本理念や施策等については、我が意を得たりで、大賛成であるが、その推進体制及び方法については不安が付きまとう。
 政府が利用促進に関する施策を総合的に策定・実施し、そのために必要な法制上又は財政上の措置を速やかに講じる責務があることは勿論であるが、それとともに、政府は「成年後見制度利用促進基本計画」を策定し、これを閣議決定することが明記されている。
 この基本計画が、推進体制の中枢を担うと思われるが、それはどんな仕組みで策定されるか?この策定は、内閣府に設置される「成年後見制度利用促進会議」が行う。この会議の会長は内閣総理大臣、委員は、内閣官房長官、法務大臣、厚生労働大臣、総務大臣が名を連ねるという豪華メンバーであるが、制度に通じた専門家ではない。したがって、実質的にこの会議の運営に当たるのは、内閣府に設置される委員会で、この委員会が審議や取りまとめの役目を果たすと思われる。
 制度の利用促進が喫緊の課題であるから、この法律の施行が5月であり、それから起算して2年内に同会議は、その役目を果たし、廃止されることになっている。まさにスピード審議である。そして、その後は、厚労省が庶務を処理する利用促進会議と専門家会議が後を引き継ぐことになる。

4 関係省庁の寄せ集め
 本来なら、成年後見制度法制の主管庁は法務省であるから、同省が制度の利用促進策を講ずべきであるが、医療、介護面に疎く、市民後見人の育成と活用は縁遠いという事情がある。他方、医療、介護を主管し、制度利用の最大の恩恵を受ける厚労省は、利用促進の音頭を取りたくとも、主管庁でないという負い目がある。そんなこんなで、どちらも消極姿勢で推移した。それでしわ寄せをまともに受けたのは、判断能力の不十分な高齢者,障害者であり、地域住民の人達である。そこで、業を煮やして出来上がったのが、議員立法よるこの法律だと憶測する。したがって、上述のように、関係省庁の寄せ集めの中で審議され、実施されることとなったが、各省庁の利害もあって、「地域住民のニーズに応える有効な施策」が打ち出せるか?打ち出せない可能性も否定できない。

5 本法律の成果に対する期待
 この法律は、成年後見制度に対する地域住民の強いニーズに応えるために必要不可欠である。また、この法律がこれまで積み上げた当法人の重要施策の正当性を保証するだけでなく、将来にわたって、当法人が、誇りと自信をもって「地域後見の実現」と「身上監護重視」の2大施策を推進する源泉として機能し、その職務遂行にあたっても、挑戦の勇気とやり甲斐を与えてくれる大いなる糧となるから、今後はこの法律の基本理念及び関連する施策の審議、具体化が、万事順調に進捗し、実りある成果が得られるよう大いに期待したい。
                           以 上

# by seinen-kouken | 2019-01-14 18:12

任意後見移行型と転ばぬ先の杖


NPO法人高齢者・障害者安心サポートネット

                理事長 森 山 彰

1 任意後見移行型と「転ばぬ先の杖」

皆さんもご承知のとおり、安心サポートグループは、後見人等の受任体制の基軸を法定後見から任意後見移行型に移行しました。その理由の第1は、任意後見移行型が自己決定権の尊重の理念に基づく魅力的な制度であるからです。そして、理由の第2は、現代の長寿社会の顕著な現象として、私達はすべて、1.身体能力の低下か、又は、2.判断能力の減退により自立した生活が困難となる宿命を背負っていますが、この移行型が、1.2.の双方の保護支援策となるからです。

何故双方の支援策になるかと言えば、この契約は、前後2つの契約で構成されていて、前の契約が後見型委任契約(従来の名称は財産管理等委任契約)で、1に対応する支援策、後の契約が任意後見契約で、2.に対応する支援策だからです。したがって、この移行型さえ締結しておけば、将来どんな事態になろうとも、自立した生活が保障されるから、「安心!」という意味で、「転ばぬ先の杖」だと言い切れると思います。

2 移行型の改善

従前の移行型は、財産管理偏重で、説明しにくく、問題点が多いと批判されていました。そこで、この「移行型」を「わかり易く」、「親しみ易く」、「安心して支援を受け易く」という視点から、改善する必要があります。

この批判の1つ目は、文書を基にした口頭説明では、複雑過ぎて、わかりにくいという指摘です。そこで、説明者も説明し易く、委任者本人も理解し易くするために、移行型を図解して、その図解図面で説明する方式を採用して、この解決を図りました。2つ目の批判は、従来の移行型は財産管理偏重で、親しみにくいという指摘です。そこで、支援内容を「身上保護重視」の観点から大幅刷新を図った結果、両契約とも同質の身上保護型となり、親しみ易くなりました。

そして、3つ目の批判は、委任者本人の指導監督機能が弱いため、適正な支援を受けにくいという指摘です。この欠陥を是正するためには、指導監督に適した報告システムの構築が不可欠ですが、と同時に、法人が受任者であれば、当法人のように、法人自身が本人側に立って、職務担当者を指導監督できる仕組みを構築できるので、「安心して支援を受け易く」なります。そうだとすると、移行型の受任は、当法人のような仕組みを持つ法人が、最も適応性があるように思います。

3 万全な「転ばぬ先の杖」

「転ばぬ先の杖」とは、準備が無くて、失敗するのは駄目で、前々から準備しておけば、失敗せずに安心できる!という意味だから、身寄りのない高齢者にとって「移行型」を締結しただけでは、立派な「杖」といえても、万全な「杖」とまでは言えません。この移行型を万全の「転ばぬ先の杖」とするためには、この改善された移行型に「死後事務委任契約を」を連結することが必要です。人が死亡すると、どんなに整理の上手な人でも、各種サービス料金の支払債務や遺品の処分等の残務整理や葬儀・納骨の祭祀事務が残ります。この死後事務を処理してくれる相続人等がいない限り、この死後事務委任契約」を締結していないと、誰も処理する者がなくて、死後の不安が解消しないからです。

更に、相続人が複数いても、全く相続争いが無い場合は例外として、相続争いが生じたら、遺産が宙ぶらりんになり、相続が骨肉の争いの始まりとなります。この悲劇を防止するためには、遺言が必要で、遺言さえあれば、「転ばぬ先の杖」は万全となり、安心です。

安心サポートネットグループは、「名は体を表す」の言葉のとおり、地域住民の皆さんの安心を追求することをその使命としています。当グループが受任の軸足を「移行型」に移行したということは、会員各位がこれらに関する幅広い知識とノウハウを習得に努められ、改善後の「移行型」をベースに、死後事務委任契約の締結や遺言支援を実践して、地域住民の皆さんの安心の確保と保全に万全を期することだと思います。この目標は安心サポートネットグループの重点目標ですから、是非とも、組織を挙げてこの実現にご尽力願いたいものと切望しています。


# by seinen-kouken | 2018-07-15 17:34

新会員への激励のメッセージ

復旧・復興の申し子
新会員への激励のメッセージ
NPO法人高齢者・障害者安心サポートネット
                    理事長 森 山 彰
1 市民後見人育成研修の意義
 平成28年4月二度にわたって、震度7の大地震が熊本を襲い、恐ろしいまでに残酷な被害をもたらしたが、熊本県民の懸命の努力で、着々と復旧、復興が進み、随所で震災前の活況を取り戻していることに深い感銘を受けた。とともに、このような復旧、復興の歩みの最中、安心サポート熊本が、本格的で、質の高い「市民後見人育成研修」を実施し、成功裡に終了したことは、熊本市民に元気を与える素晴らしいイベントだったと思う。
 その理由の第1は、現代の共生社会における大震災の復旧・復興とは、被害地を社会全体の支え合いによって復旧・復興することを意味するので、共生社会に不可欠な成年後見制度の活性化に資する、市民後見人候補47名を育成し、社会に供給したことは、復旧・復興の手助け(支え合い)による大貢献をしたことになると思う。
 第2は、それに、震災で気が沈みがちな熊本市民が、判断能力の不十分となった高齢者・障害者を支援する「市民後見人」の研修募集の情報に接すれば、誰だって未来志向だと思い、前向きで、明るい気持ちになるだろう。この研修は、この意味で、高い評価を受けて然るべきで、「よくやった」と称賛したい。
2 人材育成

本年5月26日KKRホテル熊本で開催された第8回通常総会に出席して、最も心強く思ったことは、この育成研修受講後、入会した新規会員が多数参加して、総会を盛り上げてくれたことである。
 この有為な新会員が一人前の立派な後見人として育つためには、その後のフォローアップ研修が重要だし、後見人としての実務の訓練も欠かせない。言わずもがなの蛇足と思ったが、熊本の役員の皆さんには、「何が何でも、新規会員には、逞しく育つための機会を十分に与えて、全員が安心サポート熊本を牽引する有能な人材に育てて欲しい。」と要望した次第である。
新会員の皆さんは、復旧・復興の1手段である育成研修によって誕生した復旧・復興の申し子であるから、申し子であることを胸に刻んで、自己研鑽と鍛錬に励んでいただき、使命感旺盛で、住民の皆さんから厚い信頼が得られる人材に育って欲しいと念願している。
               以   上


# by seinen-kouken | 2018-07-15 16:21

成年後見制度低迷の原因・後見人選任のミスマッチ

ミスマッチのない選任システムを構築しよう!

1 利用低迷の原因
 我国の成年後見制度は、創設後18年を経過したにもかかわらず、その利用率は、現在おおよそ認知症高齢者約460万人、知的、精神障害者約340万人と推定される中で、29年末現在、制度の利用者数は約21万人、その利用率は2.6%程度で、極めて低迷していると言わざるを得ない。
 そこで、この利用促進を図るため、平成28年4月「成年後見制度利用促進法」が制定された。次いで、翌29年3月、促進法で明らかにされた利用促進の「基本理念」や「基本方針」に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、「基本計画」が策定されたことは、周知のとおりである。
 なぜ利用が低迷しているのか、この基本計画の冒頭に鋭い分析がある。簡潔に要約すると、「後見人に対する地域住民のニーズは、意思決定支援・身上保護重視の後見であるにもかかわらず、家庭裁判所では、財産管理重視の観点から第三者専門家を後見人に選任、ビジネスライクの後見を行ってきたため、利用者のニーズが充たされず、成年後見制度のメリットや素晴らしさが実感されていない。」と指摘し、その主要な原因が選任のミスマッチの積み重ねに求めている。

2 家庭裁判所における選任のやり方
 その一般的な具体例を示そう。ここに登場するA女は、子供に恵まれず、長年連れ添った夫にも先立たれて、たまたま近くに住む姪B子の手助けで、細々と生活する独居高齢者である。常々A女はB子に対し、「もし、私が認知になったら、必ずあなたが後見人になって面倒を見てね」と頼み、B子もこれを快諾していた。やがて、A女に認知症状が出て、判断能力の診断をしてもらった結果、「成年後見」相当と出た。そこで、B子は約束に従い、自らを後見人候補として後見開始の審判申立てを行った。
 ところで、家庭裁判所では、調査の冒頭、必ず次のような説明がある。「誰を後見人に選任するかは、裁判所の裁量に委ねられているから、後見人選任の審判がでれば、それに不満でも、即時抗告はできない。だからと言って、取下げを願い出ても、家裁の許可を得なければ、それもできない。」
 この説明で、大抵の申立人や候補者は、圧倒されて萎縮してしまう。説明の態度は柔和でも、内容は、まったく威圧的である。

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 それでも、B子は、A女の後見人就任は本人の意思で、A女とは強い信頼関係で結ばれ、生活支援のノウハウも熟知しているので、「適任者は、自分以外にいる筈はない。」と確信していた。しかし、実際に選任されたのは、見ず知らずの専門家?だった。B子は泣き寝入りするしかなかったが、A女も後見人?と信頼関係が築けず、不満だらけの多い生活を送ることになった。

 上記のような家裁の後見人選任の取扱いは、もちろん民法や家事事件手続法に法的根拠があるから、違法ではない。しかし、仮に家裁が本人の自己決定権を尊重し、本人の身上保護を重視する観点から後見人を選任していたら、おそらくB子が選任されていたと思われる。そうだとすれば、選任権の乱用の疑念は残る。
 仄聞するところ、このような家裁の選任のやり方は、全国津々浦々で行われているようである。ちなみに、制度創設当初の親族と第三者専門職おける後見人の選任比率は、前者が9割で、後者が1割にも満たなかったのに対し、29年には、親族が3割弱に減少、専門職が7割を超えるまでに急増した。この急増の原因が、このような一方的で、威圧的な選任のやり方にあるとしたら、誠に嘆かわしいと言わざるを得ない。と同時に、この選任のやり方が、おそらく家庭裁判所に対する不信感を増幅し、延いては成年後見制度の信用失墜の原因になっていると判断せざるを得ない。

3 ミスマッチの防止策  
 この度の利用促進法における後見の担い手は、地域連携ネットワークに支援された市民後見人である。そこで、基本計画では、市区町村等一定の地域ごとに、権利擁護の地域連携ネットワークを構築し、そのネットワークが家裁に対し的確な情報を提供して、適切な後見人が選任されるよう支援する仕組みを作る計画である。そのため、検討すべき施策として、?.地域連携ネットワークと家裁との連携の強化、?.市民後見人候補者名簿の整備、?.市民後見人の研修、育成、活用等様々な施策を提案しているが、しかし、この程度の施策では、これまでの柔軟さを欠く家裁の態度から推測して、満足できる成果は期待できないのではないかと危惧される。
 やはり、家裁の後見人選任のやり方が、「選任のミスマッチ」の元凶であることを十分認識してもらい、この点は踏み込んだ改善が必要だと思う。
 第1の改善点は、地域連携ネットワークやしかるべき団体が、本人との適応性を調査し、後見人候補を推薦したときは、家裁はその推薦を尊重して、被推薦者を後見人に選任する仕組みにすべきである。そうなれば、家裁の裁量の幅が狭まって、身上保護重視のニーズが強い高齢者・障害者に対して、身上保護に殆ど関心を持たない特定分野の専門家を威圧的に押し付けるようなミスマッチは、激減するだろう。
 第2の改善点は、現在における後見人選任のミスマッチの状況を見ると、後見人の選任基準を定めた民法843条4項の規定は、有って無きが如く、無視されている印象がある。しかし、このような規定がある以上、家裁が申立による後見人候補者と異なる後見人を選任したときは、そのような事案だけでも、選任基準の妥当性等について即時抗告ができるように改正すべきではないかと考える。
 このような改正で、選任における家裁の強引で一方的な裁量が抑制され、即時抗告した者にも、選任理由が明確になるので、そのメリットは大きいと思う。

4 おわりに
 成年後見制度利用促進法及びそれを受けた「基本計画」が策定され、33年度までの基本計画の工程表まで明らかにされたが、何と言っても、成年後見制度の運用主体は、家裁である。また、その手続を規律するのは、「家事事件手続法」である。したがって、プログラム法である利用促進法に盛られた基本理念や基本施策が、現実に具体化するかどうかは、制度の中枢に位置する家裁の取組み如何にかかっていることは、明白である。
 他方では、促進法に盛られた基本理念や基本施策が、国民の賛同と支持を得ていることも事実であるから、家裁は、成年後見制度が超高齢社会で果たす役割を十分に理解して、率先垂範してその実現に努めることは、家裁に対する国民の信頼性向上に大いに寄与することになると思う。この面での家庭裁判所の積極的なリーダーシップを心から期待したい。

参考 民法843条4項 成年後見人を選任するには、成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、成年後見人となるべき者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者との利害関係の有無)、成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。


# by seinen-kouken | 2018-06-12 21:20 | NPO