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100歳まで生きるから支援を頼む!

1 Kさんの相談
 娘さんが父親を連れて任意後見契約の相談にきた。ところが、何とその父親は、十数年前に知り合った、かっての友人Kさんだった。私の公証人時代、そのKさんから、「遺産全部を九州国立博物館の建設資金に遺贈したい。」と希望する人を紹介されて、その遺言公正証書を作成した。このことがきっかけで、Kさんと囲碁友達になり、3目の置き碁で、Kさんの挑戦を受けていたから、私を先生と呼んでいた。
 やがて、私が成年後見制度の活性化を旗印としたNPO事業で多忙になると、すっかり疎遠なり、このたび、懐かしい再会となったわけである。
Kさんは85歳で、元気者である。しかし、奥さんは既に有料老人ホームに入所しているので、マイホームで1人暮らし。Kさんには、結婚した娘さんが2人いて、2人とも家庭を持っている。長女の方は、入所中の母(Kさんの妻)の世話と、Kさんの生活への気配りで多忙、また、次女の方も、家族の面倒と夫の親の介護で精一杯。
 Kさんを取り巻くこのような状況は、この超高齢化社会では、よく見慣れた風景である。Kさんは、自らの心身が衰弱して、自立した生活ができなくなったとき、誰が自分を支えてくれるか?娘達は、Kさんの世話まで手が廻りそうにない。誰もいないと気が付いた途端、それが不安で、不安で、その不安が募った末の相談だった。

2 任意後見移行型・遺言
 そこで、その不安解消策は、任意後見移行型の契約を締結することだと助言した。任意後見移行型とは、Kさんが信頼できる人を受任者として、身体能力の低下時に支援してもらえる後見型委任契約と判断能力の低下時に支援してもらえる任意後見契約を同時に契約しておき、Kさんの身体能力が低下したときは前者の契約で、次いで、判断能力が低下したときは後者の契約で、というように、支援する根拠法が移行する契約のタイプを言う。
 任意後見移行型の前段階の「後見型委任契約」とはどんな契約か、疑念をもたれる読者もおられると思う。従前から、この契約は「財産管理等委任契約」と呼ばれ、この呼称は、この中身が財産管理中心であることを言い表している。しかし、任意後見制度が誕生すると、この制度の影響を受け、現在では、この契約による事務は、身上監護と財産管理の各事務であることが定着し、その上、特に身体能力の低下者のニーズは、身上監護重視であるから、この契約も、このニーズに応えた新しい中身に改善されなければならない。
 そうだとすれば、「新しき酒は新しき革袋に盛れ」という故事にあるとおり、新しき革袋として「後見型委任契約」という呼称がぴったりである。まさに「名は実を表す。」で、この呼称が全国に定着すれば、この任意後見移行型の契約も、地域住民に身近で、親しみ易いものとなるだろう。是非そうなることを望みたい。
 話を元に戻そう。Kさんからは、「2人の娘達に頼むのは無理、他に信頼できる者は居ないので、私の面倒は安心サポートネットにお願いしたい。」と依頼された。
勿論「引き受けたい。」と快諾、更に、Kさん死亡後の相続財産争いを防止するため、遺言をも勧めたところ、「是非お願いしたい。」という返事、そこで、移行型の契約と遺言の各文案についてKさんの意見を十分聞き取って準備を進めた。

3 Kさんの夢
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 後日、移行型と遺言の文案を公証役場に持ち込み、公正証書が出来上がった。
それで、事務所に戻ると、Kさんが、いきなり「昨夜亡母と一緒に居る夢を見た」と話を切り出した。Kさんの亡き父・母は、ともに100歳を超える長寿だったそうだ。その母に、「もうこのへんで、そちらの天国に行きたいが、」と話し掛けたら、
 母が即座に、「何をとぼけたことを言うの。後見制度の支援をうけて、これからが新しい人生が始まるのよ。今来たら、追い返すから!」「元気で頑張り、100歳になって、こっちにきたら、歓迎してあげるわよ!」と言われたそうである。
 そして、いきなり私に向って、「100歳まで生き延びることにしたから、先生もそれまで元気で支援して欲しい。」と訴えられた。私は、長生きが無理なピンピンコロリの志願者なので、その想定外の言葉には驚いた。しかし、Kさんの100歳まで、私が元気だとしたら、それで喜ぶのは、Kさんより私の妻だと一瞬ひらめいて、「そうなったら、大喜びするのは女房の方かな!」と応じて、事務室内は爆笑となった。
続けて、「当法人は法人後見だから、Kさんの担当者が職務をできなくなっても、代わりの担当者が職務を行うから、どんなに生き永らえても、大丈夫ですよ!」と念を押した。Kさんは、任意後見移行型と遺言が、「転ばぬ先の杖」であることを納得して、すっかり安心している様子だった。
                       以 上

by seinen-kouken | 2016-06-01 19:16


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