<   2018年 04月 ( 1 )   > この月の画像一覧

もっと尊厳死の啓発と普及に力を入れよう!

1 H子の依頼
当法人が発足間もない頃、「もっと光を!」と刻まれた石碑のある養護老人ホームZ園を訪問した。依頼者は70歳を越す重度の視覚障害者のH子である。H子は、親類と絶縁状態で、他に頼れる身寄りもない。将来の不安を解消するため、任意後見移行型の契約を結びたいという。そして、まるで目で見たように、「ベッドに寝た切りで、患者が鼻や口から何本もの管を差し込まれて、植物同然で生かされている姿を、自分に重ね合わせると、ぞっとして、耐えられない。自然のまま眠るように死にたい。」と懇願した。
 このH子の絶ってない願いには、私も全く同感で、直ちに任意後見移行型の契約に尊厳死の規定を盛り込んだ。任意後見移行型の契約双方に、「H子の病気が不治の状況となり、最善の治療行為を施しても、死に至ることが確実であると判断されるときは、延命措置に過ぎない治療行為は一切施さず、人として尊厳を保ちつつ、死を迎えることができるよう、善処願いたい。」というH子の意思を医療ケアチームに伝達する規定である。この契約の定めだと、受任者や任意後見人が、この契約公正証書を医療ケアチームに直接提示する責務を負うから、尊厳死を実現するには、最も確実な方法である。

2 死の有り方の決定
 これまで任意後見の相談の際、私は、必ず尊厳死を選択するかどうか尋ねてきた。聞かれた相談者の全員が、目を輝かせながら、きっぱりと、「尊厳死」と答える。この人達は、人生の生き方、死の有り方について自己決定ができているから、終末期医療における延命治療は、とんでもない話となる。
 ところが逆に、老人の会等でこれと全く同じ質問をしてみると、答えが曖昧な場合が多い。後期高齢者になっても、自分の死の有り方を決定している人が少ないのに驚くことがしばしばである。そこで、尊厳死や延命治療とは何か?の説明をすると、やっと、尊厳死の意味を理解して、「尊厳死に賛成、植物人間は嫌だ」という返事になる。こんな状況では、尊厳死の事前表明を望むのは無理で、療養型病院や介護施設であんなに多くの寝たきり老人がいる事実に納得がいく。

3  終末期医療のガイドライン
ところで、尊厳死か又は延命治療か?国の終末期医療についての方針はどうか?厚生労働省が公表した「終末期医療の決定プロセスにおけるガイドライン」(平成19年5月)では、次の3つの原則を明らかにしている。
 原則1は、インフォームドコンセントに基づき、本人の意思が確認できる場合は、本人の意思決定を基本とし、原則2として、本人の意思が明確でない場合で、家族から患者の意思を推定できるときは、家族の推定意思を尊重することとし、原則3では、その推定意思が不明な場合は、「患者にとって最善の治療方針をとることを基本とする。」とされている。
 したがって、原則1では、尊厳死の意思を表明した者しか尊厳死の恩恵は受けられない。原則2では、家族に「長く生きて!」という願望があるのは当然として、本人の生存から各種のメリット(例えば、本人の年金の受領等)を受けている家族もいるから、延命治療を希望することが多いと指摘されている。また、原則3では、「最善の治療方針とは、できるだけ長く患者の生命を維持すること。」と考えている医師が多いから、これらの医師は、抵抗なく延命治療を実施することになる。

4 延命治療の見直しと尊厳死の普及
その結果、有識者が指摘するように、「外国では、終末期の延命治療は殆ど行われていないのに、日本では延命治療が平然と行われる。日本の常識は、世界の非常識」。自己決定権の尊重の理念に添うよう、次の施策を講じて、是非とも是正することが必要である。
 第1は、医療・ケアチームに対して尊厳死に関する意思表明を確実に伝達されるよう行うことである。確実な方式としては、例えば、①. 意思表明を公正証書で公証しておく。②.リビング・ウィル(日本尊厳死協会)を作成しておく。③.エンディングノートその他の意思表示書を作成する。そして、肝要なことは、この意思表明と伝達が社会全般に常識として受け入れられ、習慣化することである。
 第2は,医療とはできるだけ長く生命を維持することではなく、「本人の人生を有意義にし、尊厳ある死で終わらせることにある!」という意識改革が重要である。この観点から医療の根本を見直すことも必要である。
 当法人は発足以来、任意後見移行型に尊厳死条項を盛り込むことにより尊厳死の増加に努力してきた。この方式には、本人の尊厳死の意思表明が、公証されるばかりか、その意思が後見人等の職務として医療ケアチームに確実に伝達されるという利点がある。したがって、当法人としては、尊厳死条項を盛り込んだ任意後見移行型の啓発と普及にしっかりと取り組んで、尊厳死の一般化、社会の習慣化に努めていければ、と考えている。          


[PR]
by seinen-kouken | 2018-04-17 19:42 | NPO